大判例

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東京高等裁判所 昭和51年(ネ)1048号 判決

二 ≪証拠≫を総合すると、福島亮宏は、昭和一七年五月、分筆前の四〇七二番の土地のうち、本件建物の存在する分筆後の二三番七及びその南方に連なる本件土地を含む合計四〇九・九一平方メートルを、右建物の所有者であった奥住国五郎に対し、建物所有の目的をもって賃貸し、右賃貸人たる地位は、売買による土地所有権の移転に伴い亮宏から堀口和大に、賃借人たる地位は、国五郎の死亡に伴う相続により、本件建物の所有権とともに奥住武治に、それぞれ承継されたことが認められる。そして、昭和三三年四月一日に大友儀右衛門が武治から本件建物を賃借し、儀右衛門が死亡した昭和四四年二月五日以降は被控訴人が相続により右賃借権を承継して本件建物に居住していることについては、当事者間に争いがない。

三 さらに、≪証拠≫を総合すると、昭和四〇年五月、土地の所有権を譲り受けた堀口和大は、奥住武治に対して賃貸中の土地の明渡を受けて、自己の居宅を建築する目的のもとに、八王子簡易裁判所に対し、武治を相手方として、建物収去土地明渡を求める調停を申し立て、昭和四二年三月二日、両者間で調停が成立したが、その内容は、両者間の借地契約を合意解約するとともに、本件建物には儀右衛門が居住していて、武治においてこれを直ちに収去することは不可能であったため、その所有権を和大に移転し、武治は右借地権放棄及び建物所有権移転の代価という名目のもとに和大から金二二三万二〇〇〇円の支払を受けて、右土地・建物に関する権利関係から手を引くという趣旨のものであったこと、そして、昭和四二年三月三一日、右約定どおりの金員の支払及び建物についての所有権移転登記が経由されたことが認められる。

四 ところで、土地賃貸人と賃借人との間において土地賃貸借契約を合意解約しても、土地賃貸人は、特段の事情がないかぎり、その効果を地上建物の賃借人に対抗することをえず、建物賃借人は、建物使用に必要な範囲において、その敷地の使用収益をなす権利を有することを主張することができるものと解すべきである。そして、武治が前記調停において賃借権を放棄した土地のうち分筆後の二三番一六に該る部分については、≪証拠≫によると、本件家屋の敷地及び公道に至る通路をなすものとして、右建物の使用上必要不可欠な範囲と認められるから、まさに右の法理が妥当するものというべく、和大としては、武治から建物の収去に代えてその所有権の移転を受けたにせよ、建物賃貸人たる地位を承継し、借家人たる儀右衛門による右土地部分の使用を容認せざるをえない関係にあったものということができる。

しかし、右土地部分に隣接する本件土地、なかんずく、≪証拠≫により、東向きに建てられている本件建物の正面側にあたる部分<中略>を除外した区域であることが認められる本訴明渡請求部分については、別個の検討を必要とする。

≪証拠≫を総合すると、本件土地は、<中略>右二三番一六のほぼ南側に連なる、公道によって画された広い範囲の空地部分にあたり、儀右衛門は本件建物を賃借して以来、その一部を家庭菜園としたり、公道沿いの部分に果樹類を植栽したりして利用し、この部分を含めて亮宏から土地を借り受けていた武治においても、本件土地を格別の利用に供する必要も生じないままに、儀右衛門の右空地利用を黙認していたこと(右土地部分を利用させることが契約の内容として明示的に合意されていたことを認めるに足りる証拠はない。)、しかし、農家ではなく、会社勤めをしていた儀右衛門にとっては、家庭菜園といい、果樹の植栽といっても、若干の実益も兼ねた趣味の域を出ず、右空地の存在が本件建物を借り受けた動機の一端にはなっていたにしても、少なくとも、<中略>本訴明渡請求部分については、これを利用しうるのでなければ本件建物の居住に著しい支障を生じ、建物賃貸借の目的を達しえなくなるといえるような状況にはなかった(もとより、例えば整備された庭園の如く、建物に居住することと不可分的に結合された態様において利用に供されていたわけではない。)ことが認められる。≪証拠≫に徴すると、現に被控訴人が右土地部分の明渡請求に応じがたい主たる理由は、被控訴人が自動車整備工としての作業をする空地を確保しておく希望と本件建物の日照被害を避けることにあることがうかがわれるが、自動車整備工としての作業用地に利用することは、儀右衛門の生前から予定されていたことではないことが弁論の全趣旨から明らかであるし、本件建物の居住者にとって受忍限度を超える日照被害を及ぼすような建築工事に対しては、その差止めを求めることも可能であるから、いずれも、右土地部分の利用権を確保することをもって本件建物の賃貸借の目的を達成する上に不可欠なものであるとする理由となすには足りない。

右のような事実関係のもとにおいては、本訴明渡請求部分に関するかぎり、たとえ武治が儀右衛門に対してはその利用の継続をさせるべき拘束を負っていたものといえるとしても、武治が土地の所有者となった和大との間で賃貸借契約を合意解約し、土地の使用権原を喪失した以上、その効果は、本件建物の借家権に附随してこれを利用しえていた儀右衛門にも及ぶものと解するのを相当とする。すなわち、土地賃貸契約の合意解約の効果を、借地人の権原に由来する土地の使用収益権者に対抗しうる特段の事情のある場合というべきである。

(高津 横山 三井)

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